第百五十二話:笑いの神に愛される男

その日、チョロはオルデール鍾乳洞にいた。かれこれ1年以上金庫の中でホコリをかぶっているドードーの皮とヌエの牙が邪魔で邪魔で仕方ないからだ。ここ数ヶ月、チョロは自分の活動時間にメンテがあると、必ずオルデールに出向いて、モルボルガーを狙っていた。スタンが唸るぜ〜〜と言いながら毎回行くものの、モルボルガーを取る事が出来ず、毎回没時間だけをチェックして帰る日々だった。没時間を見れた日から毎日通っていれば、きっと段々ライバルは減っていって、毎回メンテ明けに張り込むよりは希望があるんだろうけど、大体二日後には、すっかり忘れて別のことをしてしまうのだ。

そんなこんなで、その日、チョロは前日にあったメンテ明けでチェックした没時間を目安に、オルデール鍾乳洞にいたのだった。

深夜3時半からオルデールに張り込んだチョロだが、その前に何をしていたか、というと・・・

その日は、パッチで詩人の新しい装束、シャイル装備のレシピがとうとう公開された翌日でもあった。詩人であり、裁縫職人でもあるPorojrは、シャイル装備の材料であるカシミアを探しに行こうではないか!という企画を持ち上げて、総勢6名が半分詐欺のような形で騙されて、ルフェーゼ野にいるデカ羊を狩に行っていた。「カシミアを出すとしたらこの羊しかありえないだろう!」というのがPorojrの言い分だった。

まぁ、ボロボロでるものではないだろうから、苦戦はするだろうけど、もし出たら今ならかなりお初商品としてみんなで儲けれるかも?!という腹黒い気持ちも手伝って、6名でルフェーゼ野に行ったのだ・・・・。羊を狩りまくる6名は、大体ずっとこんな様子だった。

「石」
「無理、石化」
「向き!向き!前方範囲ある」
「やべーリンク!」
「釣れません!鳥!大鳥!」

強すぎ!!!!普通に経験値170とか貰いながら羊とたわむれること数時間。得た物は「カシミアはこいつじゃないね!」という確信だった。

そんな事をした後に、チョロは「時間だから」と一人テレポホラでオルデールに向かったのだ。
オルデールでの張り込みは、とても孤独で寂しいのでPTは抜けずに、みんながそのまま遊んでいる声を聞いていた。

刻々と時間がすぎ、みんながルフェーゼで遊んでいる声を聞きながらモルボルガーを待った。メンテの翌日だというのに、なぜかライバルがいない!沸いたら100%取れるじゃん!というウハウハ状態だった。3時間以内に必ず沸く、とわかっているのが唯一の心の支えだった。

張り込んで2時間くらいが経過し、ライバルなしとはいえ、たまにやってくる似たような名前のばかりの6人PTに意味不明の言葉でからまれたりして、精神的に疲れてきた。その頃、ルフェーゼにいるメンバーは数名が眠いから、と落ちたり、新しくログインしてきたメンバーがルフェーゼにやってきてPTに入ったり、とメンツが入れ替わり、どうやらみんなでタブナジアで受けれるクエの1つである「釣り護衛クエ」をやろう、と準備している様子だった。

チョロもしたいなぁ・・・・受けてるしなぁ・・・と思いながらも、後1時間だ!頑張れ!自分!と自分で自分を励ましていた。ところが・・・・

「そういえば今日夕方メンテなかった?」

という髪の毛が逆立つよな情報が入ってきた。なんですって?!?!?!そんなの知らないよーーー!!!!そして夕方に活動してそうな友人にtellで聞きまくってみると、どうやら夕方に緊急メンテがあったらしい・・・・・ひどいや!!!チョロの2時間をカエセ!!!!

どうりでライバルいないはずだわ!!うわーーーん、バカーー!とすっかり凹んだチョロは、早速釣り護衛に参加する事にした。すぐにタブナジアに行けば間に合いそうだったので、急いで向かった。PTの中には、釣り護衛をするメンバーと、他の護衛クエを受けてしまっているから、今回は釣り護衛はせずにブラブラしておく、という2種類のメンバーがいた。その「釣り護衛は今日はしない」メンバーの中にその人はいた。

両手剣のみを愛し、笑いの神に愛される男。Tokiwa。71歳暗黒騎士。独身。鎌ってなんですか?ギロティンはイヤイヤ覚えました。

過去にオズトロヤの最深部でのタイマンっぷりをこの日記で披露したこともあるTokiwaは、常に背後に死神が忍び寄っているまさに暗黒騎士。Tokiwaの行くところには、本人の好むと好まざるに関係なく、美味しい死に様が約束されているのである。

でも、ここはルフェーゼ野。本人は金策のためにブガードを乱獲しまくっているほど余裕の狩場である。だから、みんな今日のTokiwaには油断していた。PTにいるけど、護衛はしないのね〜くらいにしか認識していなかったのである。

準備が整い、護衛クエに出発することになった。みんな初めてやるクエなのでワクワクしていた。タブナジアの街からでると、クエの依頼人であるおじいさんがいた。なんでもこのおじいさんは、昔は釣りでならした腕前らしく、今は引退気味だが、幻の魚とやらを釣りたいとのこと。でも外には危険なモンスターがいるから安心して釣りができるように守ってくれ、というのが依頼だった。

釣りでならしたと豪語しているくせにフィールド装備に身を固めたおじいさんを疑惑の目で見ながらクエストをスタートさせた。フィッシャー装備じゃないんかいな・・・・・・

今まであった護衛クエと同じ要領で話しかける。

「ではいこうかの・・・」

ジュワワワワ・・・・ペカッ!

画面の上に並ぶアイコンに追加されたマーク。「Lv」

そう、このクエストは今までの護衛とは違って、レベル40に制限されるクエストなのである。それは前もって知っていたので、みんな手抜きながらも40装備に身を固めていた。そして「おっしゃーいこか〜」と出発した矢先、ルフェーゼ野に暗黒騎士の叫び声が響き渡った。

T「チョ、チョ、チョットーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

別の場所でブガードを乱獲していたTokiwaのHPがみるみる減っていく。

T「オレまでレベルせいgwmmだてて、あしtp」

T「無理!とてとて!!!!」
!!!!!
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

PTメンバーは、もう声にならない笑い声をあげていた。涙で画面が見えない、とはこのことである。PTが同じまま全く違う場所にいたTokiwaは、チョロ達が護衛クエをスタートさせた瞬間、レベル40に制限されたのだった。当然装備は全部はがれ、武器は己の拳である。今の今までハナクソをほじりながら乱獲していた相手にあざけるようになぶり殺されていた。あわよくばNMでも狙おうか、というくらい余裕で乱獲していたのに、突然裸になり殺される男。その光景が目に浮かび、そして「クソーーー!」と叫びながらも、そのまま戦い続けるTokiwaに全員が拍手・・・いや、爆笑していた。

よ〜〜く考えたら気がついたかもしれない。40に制限される事は知っていたのだから。でも、誰も気づかなかった。出発寸前にも、「トキワも今度また一緒にいこね〜〜」「オッケー、受けてる護衛キャンセルしとくー」などと軽い会話さえ交わしていた。

そして笑いで震える手で握ったコントローラーと、涙で見えない画面でスタートした護衛クエは、少人数だと中々にキツく、その辺の敵に自分もからまれるわ、ジジィはモンスばっかりつり上げるわ、さらにジジィは「釣り場移動だ」と縦横無尽に走り回りトレイントレイン。MPもかつかつ、つり上げた魚をマラソンで対処するくらいの大騒ぎだった。結局、3番目の釣り場にオークにからまれまくりながら到着したジジィは、錆びたサブリガかモンスしか釣らず、釣り上げたリーチが大量にリンクし、おまけにカエルまで釣りあげる、というご乱心ぶりで、見事全滅で幕を閉じた。勝手にレベル40にさせられたTokiwaの呪いとしか思えなかった。でも、難易度や、途中の行程等が、今までの護衛クエで一番面白いなぁ、と思った。

予想だにしない方法で体をはって笑いをとる男、Tokiwa、暗黒騎士(当時)71歳、独身。本人の意思とは全く関係ない状況でも、神に愛され続ける男。

明日のTokiwaはどんな死に様を見せてくれるのかな?と期待に胸を膨らませながら、今日のチョロ・ログアウト。




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