第九十三話:友との別れ

この日が来るのは数日前から知っていた。知っていたけど、あまり考えないようにしていた。考えたら、深みにハマって、途方もなく寂しくなってしまうのがわかっていたから。

その日はJokerとYuuyuがこのアレクサンダーで最後となる日だった。Yuuyuは先に新サーバーで待っているNeonの元へ。Jokerは最近マンネリになっている毎日に終止符を打つため、新しい自分になるには新しい場所で!という決心で、ふたりとも新サーバーへの移住を決めていたのだ。

最初聞いたときは、なんで??どうして??と詰め寄ってしまった。Yuuyuは彼氏であるNeonが先に移住していて、一時はケンカもしたけれど、新たに二人で仲良く遊べるから、ということで、祝福すべき門出である。Jokerはさっきも書いたように、新しいことをするには、新しい場所で、だと思うんだ。と言った。いくらチョロが寂しくても、ふたりが自分で決めたこと。しかも、イヤイヤではなく、自分で希望し、前向きな気持ちでサーバーを去るのだから笑顔で見送ってあげなくてはいけないのだけれど、共に過ごしたたくさんの思い出が次々に浮かんできて、とても耐えられなかった。

最後の日、仕事から帰ってログインすると、Arlimanがサヨナラ企画でウィンダスでのかくれんぼ大会を催してくれていた。

早速かけつけて参加するPorojrとChoro。ルールはウィンダス全域で、天の塔、モグハウス、飛空挺の料金を払う先、以外ならどこでもOK。「○○発見」というようなマクロを作成し、それでコールされたら負け、鬼となって探す方に加わる、というものだった。最後の一人に、みんなからそれぞれ500Gずつの賞金がもらえる、というシステム。最初のダイスで決まる鬼だけは、探す役、ということで、賞金は払わない、ということになっていた。

遠方にいた低いレベルのメンバーも、迎えに行って合流し、見つけられる緊張感にかなりドキドキしながらとっても楽しくかくれんぼが行われた。

2回戦が終わったところで、Jokerが落ちる事となった。発売からもうすぐ1年。下手なリアルフレンドよりもずっとずっとたくさんの時間を共に過ごし、共に語り合ってきた仲間との最後のお別れである。こんなに寂しくて哀しい事はない。

今までも、飽きてしまって、ログインがどんどん減っていってしまったメンバーだっていた。でもたま〜〜にやってきては、みんなで遊んだり、と会えなくなった訳ではなかった。でもサーバー移動は違う。2度とこのサーバーには帰って来れないのだ。最初は戦士でその後ナイトとなり、常に素材を持ち歩いて、当時高嶺の花だったアイテム「スチールインゴット」をみんなに作ってあげれるようになるんだ!!と、言い放って鍛冶合成に燃えていた、このJokerというキャラには、もう2度と会えないのだ。

書く尽くせない、たくさんの思い出がある。言葉には出来ない感情が渦巻いて、チョロは何も話せなかった。「元気でね」「向こうでも頑張ってね」言葉は浮かんだけど、何も言えなかった。ただ、Jokerを見上げて、ずっと立っていた。涙が止まらなくて、みんなが何を言ってあげているのかも、あまり見えなかった。ただ、ただ寂しくて、こんな時に、なんと言ったらいいのか、わからなくて。

同じように発売当時からずっと共に遊んできたArlimanから「チョロ、大丈夫か?」というシンプルなTellが飛び込んできた。普段は機関銃のように話すチョロが何も言わないのを、見抜いていたのかもしれない。そのTellがきたとき、チョロの中で何かがはじけた。

「どうして移動しちゃうんだろう」「今までのミッション、全部一緒にやった」「前衛が守ってくれるから、殴られても逃げなくていい、って教えてくれたのはジョカだった」「色んなこと、一緒に学んだ」「ずっと一緒に育ってきたのに」・・・・・・・

自分で決めて移住するJokerなのだから、言ってはいけない、と思っていたセリフが止まらなかった。寂しくて寂しくて、移住するキモチが分からなくて。

Arlimanはずっと「うん、うん、そうだね」とだけ言ってくれた。チョロの叫びはそのままArlimanの叫びだったはず。言っても仕方ないとわかっているけど、止まらないチョロのキモチがわかっているからこそ、何も言わずにただ聞いてくれていた。

しばらくして、かくれんぼ3回戦に参加するために遠方から駆けつけていたメンバーが到着し、最後のメンバー、ラステルをチョロはテレポで迎えにいくことにした。そうやって別のことをして、少し落ち着こう、と思った。

ラステルが到着し少し落ち着いたチョロはArlimanに「落ち着いた。みんな到着したし、元気になる!」とTellし、Yuuyuの最後となるかくれんぼをせいいっぱい楽しもう、と思った。

Yuuyuがフレンドの結婚式で使うのを忘れて持ち帰ってきた、というクラッカーの合図で3回戦がスタートした。3回戦もとても盛り上がり、初めてウィンダスにきたBaphometさんのまさかの頑張りや、真っ先に見つかってしまったラステルが鬼になるといきなり手ごわい相手になったり、とみんな存分に楽しんでいた。3回戦はKagの優勝で幕を閉じ、そしてYuuyuとのお別れの時間となった。

森の区の噴水前でみんなで最後のお別れをした。「なんて言ったらいいのかわからないわw」とYuuyuは言った。せいいっぱいのセリフだなぁ、と思った。きっと泣いているんだろうな、と思った。LBJのアイドル、Yuuyuは最後まで明るく、涙は見せずに、元気に手を振って去っていった。

なんともいえない空気がその場に漂った。みんな寂しくて、でも、悲しい理由の移住じゃないことは、分かっていて、上手い言葉が見つからない、みんながそう思っているのがすごく伝わった。

「別れもあるけど、新しい出会いもある!これからもLBJ盛り上げて行こうね!!」

Gapuelの素敵な一言で、みんなは元気を取り戻した。時間も遅く、その日はみんな、そのままログアウトして行った。

明日になったらJokerとYuuyuはアレクサンダーにいない。でもふたりとも倉庫キャラをアレクサンダーに残していったそうだ。倉庫キャラもLBJのLPを所持している。だから、またおしゃべりすることは可能なのだ。JokerとYuuyu、というキャラとは永遠の別れとなってしまったけど、その分身でやってきて、新しいサーバーでの出来事や事件を、たまに顔をだして話して欲しいな、と思う。二つのサーバーにまたがって、それでも繋がっているメンバーとなってほしいと思う。

寂しい気持ちを吹っ切る事はすぐには出来ないけれど、これからも、せいいっぱいヴァナライフを楽しみたい!そう願って、今日のチョロ・ログアウト。




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